
私たち、豆好きなもので……。
「リトル・ブラジル」とも称される群馬県の大泉町には、たくさんのブラジル人が暮らしています。彼らにとってなくてはならない存在なのが、ブラジル人向けの食料品店です。地球の裏側まで行かなくても彼らの普段着の食生活を垣間見られて、ブラジルの食文化を体験できるブラジリアンスーパーマーケットに足を運んでみましょうか。
大泉町には約4500人、隣接する太田市には約3100人のブラジル人が暮らしています。出稼ぎとしてこの地にやってきて定住し、おもに「富士重工業」(現「SUBARU」)や「三洋電機」(現「パナソニック」)をはじめとする製造元の工場で働いている人々です。
魅惑のブラジリアンスーパー
彼らの生活を支えているのが、東武鉄道の西小泉駅前を走る旧国道354号線沿いに点在するブラジル人向け食料品店です。そのなかの一店で最大級の規模を誇る「スーパータカラ」に、ブラジルの食材やブラジル人の食文化について教えてもらいました。

豆、マメ、まめ……
店を訪れて真っ先に目に留まるのが、豆売り場です。定番の豆の煮込み料理「フェイジョン」に使う「カリオカ」、フェイジョアーダに使う「フェイジョン・プレット」(黒インゲン豆)のほか、これも煮込み料理に使う白インゲン豆やレンズ豆、ウズラ豆、ヒヨコ豆、レッドキドニーなどがおもだったところ。数種類のメーカーの商品がずらっと並んでいて壮観です。

国連食糧農業機関によると、ブラジル人は日本人の10倍以上も豆を消費しているということですから、ブラジル人にとってこれらの豆が欠かせない食材だということがわかります。ちなみに、ペルー産の豆もたくさん陳列されていますが、種類や用途が違うのでブラジル人がペルーの豆を購入することはないそうです。

週末にはバーベキュー
続いては精肉売り場へ。ここで目立つのは牛の赤身肉です。ステーキ用にカットされたものだけでなく、塊肉も販売しています。この塊肉は週末に家族や友人たちとバーベキューをするためのもの。ブラジル人はバーベキューが大好きで、ブラジル現地の家庭では「シュハスケイラ」と呼ばれる石などで囲った炭火の肉焼き場が常備されているそうです。

ブラジル産牛肉は輸入されていないので、スーパーで販売しているのはオーストラリア産が中心。もちろん、豚肉とその内臓肉や鶏肉も食べるので、精肉売り場にはかなりの面積が割かれています。

煮込みに欠かせない加工肉
バーベキューに欠かせないソーセージ。有名なのは「リングイッサ」と呼ばれる生ソーセージです。ぐるぐるに巻かれた細長いものから、フランクフルト状のものまで形状や味つけはさまざま。ブラジルを代表する豆料理「フェイジョアーダ」に欠かせない牛肉の塩漬け「カルネ・セッカ」ももちろん売っています。

おもしろいのはソーセージやカルネ・セッカ、豚足などがセットになった「フェイジョアーダセット」が売られている点です。これとフェイジョン・プレットを購入すれば、自宅で簡単にフェイジョアーダがつくれるというわけ。これなら私たちも自宅で試せるかもしれません。

魚はティラピア一択!?
百花繚乱といった趣の肉売り場に比べると魚売り場はかなり劣勢です。いちばん好まれるのは「ティラピア」と呼ばれる淡水魚で、おもにフライやムニエルにして食べられるとのこと。それから、ブラジルの魚介料理としてはずせないのがパーム油やココナッツミルクで魚介類を煮た「ムケッカ」。煮込み料理用に田ウナギや白身魚、エビなども販売していますが、じっさいのところブラジル人たちは、新鮮な魚を購入したいときには日系のスーパーに買い物にいくのだとか。ブラジリアンスーパーと日系スーパーをうまく使い分けているようです。
コメの一番人気は……
以外に思うかもしれませんが、ブラジル料理における主食は基本的にコメ。現地では長粒米を食べることが多いそうです。ただし、ブラジル産のコメは輸入されていないので、こちらで売られているのはもっぱらタイ産。赤いモチ米を炊いてブラジル版の赤飯をつくることもあるそうです。とはいえ、店員さんのあいだでは、コメに関しては「日本のほうが断然おいしい」という声もちらほら。

うま味調味料は使う?使わない??
香辛料やハーブも各種取りそろえています。煮込みに欠かせないローリエやローズマリーなどの定番にくわえ、バーベキュー用のシーズニングや各種ミックススパイス、チミチュリソースの素なども。

そしてブラジル人がなにかと料理にかけるキャッサバ粉「ファロッファ」ももちろん売っています。ブラジル味の素社製の「Sazón(サゾン)」も各種取りそろえていますが、売り場のお母さんはうま味調味料なんか使わずに自分の味を出さないとダメよと断言。それでも、ブラジル本国ではすでに一般的になってしまっているようです。
パンに菓子にアルコールも
スーパーの一角にはパンのコーナーがあります。ブラジルのチーズパン「ポンデケージョ」が有名ですが、食感や味わいが店によってけっこう異なるので、食べ比べてみてもおもしろいでしょう。「フランスパン」と呼ばれるパンも販売していて、これは自宅でサンドイッチにして食べるのが一般的だそうです。

具材を包んだ揚げパン「パステウ」も売っています。既製品の菓子類で有名なのが「ゴイアバーダ」。グァバ味の羊羹のような食感の菓子でとにかく甘いです。アルコール類ではカクテル「カイピリーニャ」に使うことで有名な「カシャッサ」も各種取りそろえていて、当然ブラジル人が大好きな「マテ茶」も買うことができます。

駆け足で紹介しましたが、ブラジル人の食卓の様子が多少は伝わったでしょうか。ブラジリアンスーパーマーケットにはここで紹介しきれなかった食材にくわえ、生活用品や衣類など、まだまだ魅力的な商品がたくさんあります。海外を訪れる感覚で遊びに行ったら、楽しめること間違いなしです。

Text/Tetsuo Ishida