
愛され続ける“不遇な”グルメ。
郷土料理は日本全国に存在しますが、その多くは地元以外では食されず、魅力も知られていません。栃木に古くから伝わる「しもつかれ」も同様でしょう。個性的な地域密着スーパーでこの不思議な郷土料理を体験してみませんか?
「しもつかれ」は、おもに栃木県南部で食べられている郷土料理です。鮭の頭、粗くおろした大根と人参、大豆、酒粕を煮込んで発酵させたもので、1000年前から作られていたという説もあります。かつては旧暦2月の初午のときに稲荷神社に供えられていたようです。
生活の知恵が生んだ「しもつかれ」
海から遠いこの地域では、正月に保存食である荒巻鮭(塩鮭)を食べる習慣がありました。その頭や節分のときに炒った大豆の残り、しなびた野菜などを材料として用いたしもつかれは、食材を無駄なく使うための生活の知恵が生んだ料理であるといえます。

冬になると各家庭で仕込み、それぞれのしもつかれを重箱に詰めてお裾分けし合う風習もありました。荒巻鮭の塩分と酒糟だけで調味するのが一般的ですが、家庭によって調味料を加えるほか、材料や調理法が異なることもあるので、「7軒のしもつかれを食べれば病気にならない」という俗諺も残っています。それぞれの家庭で使う食材や、家に棲みつく菌を摂取すれば健康でいられるという意味合いだったのかもしれません。

しかしながら、近年はこうした慣習はすたれてしまい、しもつかれを作る家庭は減っています。その代わり、栃木市にはこのしもつかれを看板商品として販売し、人気を呼んでいる店があるのです。
地域密着のスーパーで大人気

東武日光線栃木駅から徒歩10分程度の裏通りにたたずむ「かねふくストア」。創業は1954年。栃木名物の「じゃがいも焼きそば」や「ずいき酢」、おからやなますといった素朴な手作り惣菜、さらに野菜、果物、菓子なども販売する地元密着の小さな食料品店です。この店で一年中しもつかれを買うことができます。

店頭に立つのは2代目の熊倉さなえさんと義姉の五味渕文子さん。しもつかれは開業当初から販売してきたそうですが、最近は後述するしもつかれを用いた町おこしの動きも後押しし、店頭に並べたそばから完売してしまう人気ぶりだといいます。

かねふくストアのしもつかれは、酒粕の量や塩味を控えめにして、一般的なレシピよりも食べやすいように醤油ベースの薄味に仕上げているのが特徴です。鬼おろし器を使って粗くおろした大根と人参に、煎り大豆、油揚げを加え、野菜や大豆に適度な歯ごたえが残る程度に大鍋で煮込みます。仕上げに酒粕を加え、ひと晩程度おいて発酵。全体を馴染ませ、酒粕のまろやかな風味をまとわせて完成です。

店では冷やして販売しているので、熱々のごはんにそのまま乗せて食べてもいいし、好みで温めて食べてもおいしいそうです。栄養バランスにすぐれ、ごはんのおかずだけでなく、酒のつまみにもなるすぐれものといえます。最近ではしもつかれを使ったパスタやサンドイッチなど、お客さんが新しい食べ方を提案してくれることもあるそうです。

真岡市にある「菓子工房こぶし」のしもつかれを使った菓子「しもつかれビスコッティ」と「ガトーしもつかれ」も販売しています。

不人気を逆手に取って
しもつかれは近年、学校の給食でも出されているので、地元で知らない人はいませんが、その評判は長いこといまひとつでした。鮭の頭や酒糟を使うので生臭くなりがちで、味も見た目も地味。好んで食べる人がいる一方で、若い世代を中心に「しもつかれは苦手」という人は今でも少なくありません。

しかし、そんな不人気なしもつかれの知られざる価値に着目し、栃木県の観光資源として活用する試みに注目が集まっています。その仕掛け人とユニークな手法については後編でお伝えします。
Text/Tetsuo Ishida