ブラジル人街で味わう母の味。

4500人を超える日系ブラジル人が暮らす群馬県の大泉町には、たくさんのブラジル料理店が店を構えています。その草分けといえるのが「レストラン ブラジル」です。現地流の豪快な料理が売りの同店に、ブラジルの食文化と定番料理「フェイジョアーダ」のつくり方を教えてもらいました。

かつて大泉町の目抜き通りだったグリーンロード商店街ですが、いまはネパールやベトナムといったアジア系の店が目立っています。そんな一角にたたずむ黄色と緑色の外観が印象的な「レストラン ブラジル」は、ブラジルタウン大泉の象徴的な存在です。
photo by Kosuke Kobayashi
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豆と肉をこよなく愛する

レストラン ブラジルの開業は1990年のことです。先代の店主が創業し、2008年に現店主である岩田カルロスさんが引き継ぎました。現在はカルロスさん夫妻と長男のダニエルさんの家族3人で切り盛りしています。
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創業当時から地元のブラジル人たちでにぎわいましたが、12年に人気テレビ番組で紹介されたこともあって、いまでは県内外からお客さんが訪れる人気店になっています。
献立はブラジルの家庭料理が中心です。煮込み料理やステーキを軸にして、それらにご飯とスープなどがついたセットメニューも用意。牛肉や鶏肉、ソーセージなどを串に刺して焼いたシュラスコも提供しています。
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ブラジル料理を特徴づける食材として真っ先に挙げられるのが「豆」でしょう。「フェイジョン」は、インゲン豆の一種であるカリオカ豆を煮込んだもので、ブラジル人は副菜として、あるいはごはんと一緒に毎日のように食べます。大泉町にあるブラジリアンスーパーマーケットに行けば、棚一面にさまざまな豆が並んでいて壮観です。
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続いて欠かせない食材が牛肉です。ブラジルは牛肉の生産がさかんで、文字どおり頭から尻尾までそれぞれの部位にあった調理法で味わいます。いちばん人気なのが、日本では「イチボ」、ブラジルでは「ピカーニャ」と呼ばれるお尻に近い部位です。串焼きにして塊肉をほお張れば、ムギュっとしたとした弾力のある噛みごたえで、肉のうま味が口中へ雄大に広がります。
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リブロースなどの部位はステーキにしますが、ブラジルでは昼からステーキを食べるのも普通のこと。レストラン ブラジルでも昼時にいちばん出る献立がステーキに目玉焼き、山盛りのポテトフライ、ご飯などがついた「コメルシャル」だそうです。
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ボリューム満点ですが、野菜をみじん切りにしてビネガーで和えた「ビナグレッテソース」をかけるとさっぱり食べられます。先にご紹介した「フェイジョン」をご飯にかけても、たまらないくらいにおいしいのです。
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官能的な煮込み料理

ステーキに適さないスネ肉やテールは煮込み用に、バラ肉などは「カルネ・セッカ」という塩漬けに肉に加工して、これも煮込みに使います。
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ブラジル人は煮込み料理も大好き。レストラン ブラジルでも牛のハチノスや豚のスペアリブと白インゲン豆と煮込んだ塩味の「ドブラジーニャ」、牛肉のトマトソース煮「カルネ・デ・パネーラ」、赤魚をココナッツミルクとパームオイルで煮込んだ「ムケッカ」など、多彩な煮込み料理を提供しています。
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ダニエルさんによれば硬い豆を短時間で煮込める圧力鍋は、ブラジルの家庭では必需品とのこと。
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そして、この豆と肉類を煮込んだブラジル料理の代名詞的存在が「フェイジョアーダ」です。フェイジョアーダは家庭でもつくりますが、どちらかといえばハレの料理で、家族や友人が集まったときに振る舞うそうです。それぞれの家庭ならではのつくり方がありますが、レストラン ブラジルではダニエルさんのマンイ(母親)であるエウザさんのレシピで提供しています。つくり方を聞いてみました。
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単純なのに奥深いマンイの味

1 黒インゲン豆をひと晩水につけてもどす。
2 黒インゲン豆、カルネ・セッカ、ベーコン、ニンニク、ローリエを圧力鍋に入れて加熱する。
3 豚のスペアリブと豚のテール、豚足、豚耳と2種のソーセージを火の通りにくい順番に2回に分けてくわえ、やわらかくなるまで煮込む。
4 塩、コショウで調味する。
工程はたったこれだけだそうです。味つけも塩とコショウだけ。それなのに、味の奥深さといったらありません。カルネ・セッカやベーコンなどから出たうま味が鍋のなかに閉じ込められ、黒インゲン豆と混然一体になった官能的なおいしさです。これをご飯にぶっかけて食べるのがブラジル流。
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そこに欠かせないのがキャッサバ粉「ファロファ」です。これといった味がしないし、口のまわりにくっつくし、日本人からするといまいち魅力がわかりにくいのですが、ブラジル人は必ずこれをかけます。ファロファをおいしいと感じるようになれば、立派なブラジル通なのかもしれません。
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このキャッサバは素揚げにしても食します。ジャガイモを軽くしたような独特な食感で、スナック感覚でサクサク食べられます。レストラン ブラジルでは大泉町に隣接する邑楽町の生産者からキャッサバを仕入れているそうです。日本では非常に珍しいキャッサバ農家ですが、近くで多くのブラジル人が暮らしているので需要があるのです。
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肉にかぶりつき、腹がふくらむまで豆を食らう。本場仕込みのブラジル料理は本能に訴えてくるおいしさです。ブラジルタウンを訪れて、本場の醍醐味を堪能してみてください。
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Text / Tetsuo Ishida