
奥深きペルー料理の世界。
群馬県の大泉町や太田市、伊勢崎市には多くの日系ペルー人が暮らしているため、彼らが食事をとるペルー料理のレストランも点在しています。ペルー料理と聞いてもピンとこない方もいるかと思いますが、今回はペルー料理店で定番の料理と食材について教えてもらいました。
ペルー料理と聞いて、どんな料理を思い浮かべますか。まったく体験したことがない方でも、「セビーチェ」という料理名は聞いたことがあるのではないでしょうか。セビーチェはペルーの象徴ともいえる料理で、どこのペルー料理店でもかならず提供しています。

ペルー式マリネ「セビーチェ」
セビーチェは、新鮮な魚介類を塩、レモン果汁、トウガラシ、赤タマネギ、クアントロ(パクチー)などで和えた料理です。「ペルー版魚介のマリネ」といってもいいかもしれません。伝統的なセビーチェは角切りにした白身魚などを保存が効くように長時間マリネしていましたが、近年は魚介の鮮度管理や下処理の技術が発達したので、注文を受けてから新鮮な魚介をマリネ液でさっと和えて提供する形式が主流になりつつあります。

セビーチェにはいろいろな種類がありますが、スズキやタイのような白身魚にホタテやエビ、イカ、タコなどを加えた「セビーチェ・ミスト」(ミックス・セビーチェ)がもっとも有名です。大泉町に店を構える「アイユス・レストラン」では、レモン果汁、きざんだ「アヒ・リモ」(トウガラシの一種。詳細は後述)、「ロコト」(同)のペースト、きざんだニンニクとクアントロ、塩、コショウで魚介類と薄切りにした赤タマネギを和えています。
そこに定番の付け合わせであるふかしたサツマイモとゆでたトウモロコシ(現地では白いトウモロコシ「チョクロ」を使用)と乾燥トウモロコシを添えれば完成。ピリッとした辛味と鮮烈なレモンの酸味が印象的な前菜ですが、辛さは好みで調整可能です。魚介だけでなく、キノコや肉類のセビーチェを提供する店もあります。
ペルー料理といえばトウガラシ
このセビーチェを含め、ペルー料理に欠かせない食材がトウガラシです。たくさんの種類があります。アヒ・リモは、ピリッとした辛味の小ぶりなトウガラシで、赤、緑、オレンジなど、色によって辛さにばらつきがあります。きざんで生のまま用いるのが一般的です。ロコトも激辛のトウガラシですが、こちらは肉厚でうま味も兼ね備えています。ペーストにして使うのが普通で、大泉町のスーパーではペルー産の瓶詰めペーストが販売されています。

辛さ控えめの黄色いトウガラシ「アヒ・アマリージョ」や、辛くないトウガラシ「アヒ・パンカ」も多用されます。アヒ・パンカはコクのある香りが特徴で、煮込み料理のベースに用いたりします。同じトウガラシでも、きざんだり、ペーストにしたり、乾燥させたりと、料理によって使い分けるのがペルー流。トウガラシと聞くと辛いイメージですが、ペルーでは辛味だけでなく、うま味の要素としてトウガラシを活用しているのです。

トウガラシとならんで、ペルーで多用されるのが豆です。多彩な豆料理がありますが、なかでも「フレホル」や「フレホーレス」と呼ばれるカナリオ豆(インゲン豆の一種)の煮込みは、料理の付け合わせとしてよく用いられます。

それから、アンデスが原産のジャガイモ。チーズソースをジャガイモにかけた「ワンカヨ」という料理が有名です。

日本人受けする「ロモサルタード」
さて、セビーチェと並んで有名なペルー料理が「ロモサルタード」ではないでしょうか。中国料理の流れを組む料理で、牛肉とアヒ・アマリージョ、あるいはパプリカなどの野菜、ポテトフライを一気に炒めて、ご飯に添えて提供します。味つけのベースは醤油です。

伊勢崎市の「エル・ケーロ」では、牛のフィレ肉、フライドポテト、野菜類に赤ワインを加え、強火に熱した中華鍋で一気に炒めます。仕上げに白ワインと塩、コショウ、醤油、酢をくわえて調味したら完成。これがもっとも原形に近いロモサルタードのレシピだそうです。醤油ベースの味わいは日本人になじみやすく、ご飯との相性のよさはいうまでもありません。

ペルー料理とは何なのか?
15世紀に金や銀を求めてこの地にやってきたスペイン人は、一緒に自分たちの食文化も持ち込みました。豆やジャガイモをはじめとする現地食材と欧州の文化が融合したのがペルー料理の原点といえます。その後、中国や日本から移民がやってきて、それぞれの食文化がそこにくわわります。第二次世界大戦後にはイタリア系やフランス系の移民も増えました。「ニッケイ(日系)」「中華系」「イタリア系」など、多彩な料理がペルーで食べられているのはそのためです。

さまざまな人種・民族の文化が混ざり合い、多彩な自然環境のもとで独特な発展を遂げたペルー料理。近年は現代的な仕立ての料理を提供するレストランも増えていて、世界中の食通から注目を集めているようです。東武鉄道に乗って上毛地域を訪れれば、そんな奥深いペルー料理の世界を体験することができます。

【SHOP INFORMATION】
Ayllus Restaurant/アイユス・レストラン
群馬県大泉町坂田 7-5-25
0276-63-2728
11:00-21:00
月定休
Peruan Restaurante EL KERO/ペルー料理 エル・ケーロ
群馬県伊勢崎市若葉町4-16
027-021-0978
12:00-20:00
水・第1火定休
Text/Tetsuo Ishida