冷涼な気候が育む極上イチゴ

通常のイチゴの収穫期が5~6月であるのに対し、「夏イチゴ」(または「夏秋イチゴ」)はその名のとおり夏~秋にかけて収穫されます。栃木県農業試験場いちご研究所が、2005年に盛夏期の受精能力にすぐれた「栃木24号」に大果で形がいい「00-25-1」を受粉させて開発した「なつおとめ」もその一種です。

Photo by Kaoru Yamada
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イチゴの天敵は高温

栃木・奥日光の戦場ヶ原に位置する岡崎農園も、このなつおとめを栽培しています。もともとは野菜農家で、近年は花やイチゴの苗の山あげをおもに行ってきました。しかしながら仕事が減少していたため、2016年からは事業を引き継いだ3代目の岡崎孝彦さんが、新しい試みとして「Mt.Berry」の屋号でイチゴの栽培を開始。現在はなつおとめと四季なりの「よつぼし」を栽培し、「天空の高原いちご」という商品名で販売しています。
 
Photo by Kaoru Yamada
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イチゴは30℃を超えると、花が咲かず、実もならないといわれていますが、標高約1400mの戦場ヶ原は、真夏でも昼間の気温が25~30℃程度。夜は10℃程度まで下がるそうです。この1日の寒暖差も重要で、イチゴ栽培にとって最適な場所だと岡崎さんはいいます。   それでも暑さを軽減するために、Mt.Berryでは地面に苗を植える土耕栽培にくわえ、苗のまわりの温度を低く保てる高設栽培も採り入れています。また、夏イチゴは気温が高い季節を越さなければならないため、害虫の被害も出やすくなりますが、害虫であるダニを食べるダニを天敵資材として導入するなど、極力農薬に頼らない対策を講じています。こういった工夫を重ねることで、おいしくて安全なイチゴが育つのです。
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甘くて真っ赤な完熟イチゴ

生産周期はおよそ2ヵ月で、もっとも早いもので毎年7月中旬ごろから収穫がはじまります。流通の期間を考慮して赤くなりきっていない状態で収穫する農家も少なくありませんが、できるだけ完熟に近い状態のイチゴを収穫するのが岡崎さんの流儀。完熟に近づけることで一気に甘みが増し、出荷時には糖度が12度まで上がるといいます。見た目も色鮮やかな赤色に染まります。なつおとめはもともと酸味が強い品種ですが、そこに甘みがくわわってバランスにすぐれた最上の味わいになるというのです。
Mt.Berryでは農協や市場をとおさずに、この取れたての完熟イチゴを顧客に直接届けています。元来夏から秋にかけては、イチゴの旬ではありませんでした。そのためおいしいイチゴが出まわることはなく、いまでもこの間はイチゴのショートケーキの販売を休止する菓子店もあります。でも、この天空の高原いちごに出会えば、そうした常識は覆されることでしょう。現に栃木県内や東京の菓子店やレストランでは、Mt.Berryのイチゴがケーキやデザートに用いられているそうです。インターネット通販を使えば、一般の方も購入できます。

東武特急で味わえる

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Mt.Berryでは収穫期にイチゴ狩りも実施していて、県内外からたくさんの参加者が訪れています。奥日光の澄んだ空気の中で採りたての完熟イチゴを味わう。最高の体験といえるでしょう。また、Mt.Berryのイチゴでつくったソースをかけたアイスクリームもインターネットや道の駅などで販売しています。
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東武鉄道の新型特急列車「スペーシアX」の運行開始を記念して販売した特製のお弁当には、このイチゴを使ったデザートが盛り込まれています。(※お弁当は現在終売しています)東武鉄道で日光に訪れ、特別なイチゴを味わってみてはいかがでしょうか。
 
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Text/Tetsuo Ishida
※東武鉄道の新型特急「スペーシアX」の運行開始に合わせ2023年7月より販売を開始した「X Premium」(スペーシア X スペシャル弁当、スイーツ「天空の湖」)は、供給可能な季節が限られた希少な食材を使用していたことから現在は終売しています。( X Premium の終売について | 東武鉄道公式サイト