川魚の概念が覆るピンクのニジマス。

「ニジマス」と聞くと、みなさんはどのような姿を思い浮かべますか?
釣り堀で見かけたことがあるかもしれませんね。山中の食堂や旅館では、塩焼きとしてお目見えすることが多いでしょうか。そんな身近な魚ですが、栃木県の日光では、清らかな水の恩恵を受けて大きさも味わいも私たちの想像を超える規格外のニジマスを育てています

 
photo by Yoma Funabashi
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東武日光駅から大谷川沿いに西へ3kmほど行った場所にある清滝養鱒場では、日光連山男体山から湧き出る地下水を使って最高品質の「プレミアムヤシオマス」をはじめとする淡水魚を養殖しています。


ピンクに輝く貫禄の巨体

清滝養鱒場で養殖魚の面倒を見る従業員の1人が、温和な笑みを絶やさない髙橋亮さんです。もともと特段魚が好きというわけではありませんでしたが、いまではすっかり愛着がわいて、近くにクマが出たと聞けば養鱒場に泊まり込み、ひと晩中寝ないで魚たちを見守るほどです。
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髙橋さんによると、清滝養鱒場の創業は1960年と古いのですが、2019年に法人化してからブランド魚の養殖にさらに力を入れるようになったそうです。22年現在、ニジマスやイワナのほかに主力商品である「ヤシオマス」を養殖し、おもに県内のレストランや宿泊施設などに卸しています。
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ヤシオマスは、栃木県の水産試験場が90年ごろに開発したメスのニジマスの改良種です。受精卵を加温処理することで卵を持たないように品種改良されているので、そのぶん栄養が身にまわって大きく成長してもおいしく食べられるという特色があります。身の色が栃木県の県花であるヤシオツツジの花の色に似ていることから名づけられたそうです。
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そのヤシオマスのうち、うま味成分のひとつとも言われるオレイン酸含有量や身の色、サイズ、出荷方法など、7つの基準を満たす特別な個体が前述のプレミアムヤシオマスです。選び抜かれたマス界の逸材と称せるかもしれません。清滝養鱒場のほか、県内の複数の業者で生産されています。
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清滝養鶏場は源流に近いために水量が一定で、水温も年間を通じて11℃前後に保たれています。水質はそのまま地域の生活用水に使われるほど清らかで、ミネラルを豊富に含みます。そうした恵まれた環境で、魚たちは魚粉や大豆の搾りかす、身に赤みを帯びさせる成分であるアスタキサンチンなどを食べながら2年間かけて育ち、出荷時には体長45㎝、重量2㎏の堂々たる体躯に成長します。
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水揚げした魚は、血管にホースをあててその水圧で血液を除去する「津本式」と呼ばれる方法で処理を施し、冷蔵庫で4日間ねかせてうま味を高めてからプレミアムヤシオマスとして出荷されるのです。
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上質な甘い脂、なめらかな質感。ニジマスの概念が覆る。

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気になる味わいは、上質な脂が適度にのってオレイン酸由来の甘さを感じられます。脂肪の融点が低いために身質はやわらかく、絹のようななめらかな口当たりです。きれいな水で育ち、適切に血抜きされているので川魚特有の臭みはまったくありません。刺身で食べれば、その品質のすばらしさは歴然です。
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加熱調理にも向いていて、ミキュイ(半生)に火入れすればしっとりと、中心まで加熱すればふっくらと仕上がります。味わいにくせがなく、どんな食材とも合わせられるので、和洋中を問わずに幅広い料理に仕立てることができそうです。
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清滝養鱒場で生産されたプレミアムヤシオマスは、親会社が経営する「日光金谷ホテル」をはじめとする栃木県内の宿泊施設や飲食店で味わうことができます。5日前までに予約をすれば、清滝養鱒場を訪れて個人でも購入することができます。
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カワセミをはじめとする野鳥が暮らし、ときにはクマやイノシシも出没する自然のなかで、髙橋さんをはじめとする従業員が手塩にかけて育てたプレミアムヤシオマス。澄んだ水の流れを思い浮かべながら、その規格外のおいしさを体験してみてください。
 
Text/Tetsuo Ishida