父と子が紡ぐペルー料理。

群馬県伊勢崎市に日系ペルー人の親子が営むレストランがあります。創業は1998年。ペルーのレストランで働いていた父と、幼いときに日本に渡って料理人を志した息子。2人の思いが詰まったペルー料理の数々を味わってみませんか。

太田市や大泉町と同様に、伊勢崎市にも南米出身の人たちがたくさん暮らしています。幸地アキノリさんの父親も、およそ30年前に出稼ぎとして日本にやってきた日系ペルー人の一人です。来日当初は桐生市の自動車工場で働いていたそうですが、ペルーでレストランに勤めていたこともあり、伊勢崎のペルー料理店を手伝うようになります。その店を前の店主から譲り受けて開業したのが、「エル・ケーロ」です。
photo by Kosuke Kobayashi
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ローストチキンは父の味

アキノリさんの父親が働いていたのは、ペルー風のローストチキン「ポーヨ・ア・ラ・ブラザ」の専門店。当然、エル・ケーロの看板料理も特製ローストチキンです。ペルーにはいたるところにポーヨ・ア・ラ・ブラザの専門店がありますが、1店1店味わいが異なるといいます。イタリア系、中華系、アンデス系と個性を打ち出し、各店が味を競っているのです。
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エル・ケーロのレシピも独特で、まずは伊勢崎産のニンニク、ビネガー、味噌、クミン、ゴマ油、塩、コショウを合わせた特製のタレに丸鶏をひと晩漬け込みます。それをいったん冷凍庫に入れて保存。解凍して余計な水分を絞ってから特注のロースターで40~50分かけてじっくり火入れするのです。
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年季の入ったローストマシンで香ばしく焼き上げた丸鶏は、表面がパリパリで中心はしっとりやわらかい。味噌とゴマ油をタレに加えることで、風味豊かに仕上げています。適度に脂が落ちているのでくどくなく、チキン自体の味わいが堪能できます。テイクアウトもできるので、焼きたてを家庭に持ち帰って食べるお客さんも少なくありません。
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息子の料理は現代風!?

ローストチキンに関しては父親の独擅場で、アキノリさんは「いまだにチキンに触らせてもらえない」と笑います。その代わりにアキノリさんが推すのは、「コラソン・ア・ラ・パリヤ」と「アロス・コン・マリスコ」。というのも、この2品は彼独自のレシピなのです。
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「コラソン」は牛のハツ(心臓)のこと。ペルーでは屋台料理である「アンティクーチョ・デ・コラソン」(牛ハツの串焼き)が人気なのですが、ア・ラ・パリヤはそのレストラン仕立てといえる料理です。
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アヒ・パンカ(トウガラシの一種)のペースト、ニンニクのピュレ、赤ワイン、ビネガー、クミン、オレガノ、塩、コショウを合わせた特製のタレに1日漬け込んだ牛ハツを高温に熱した鍋で一気に加熱。表面は香ばしく、中心はレアに仕上げます。もともとのレシピは日本人のお客さんには濃すぎると感じていたアキノリさんが、ビネガーやワインをくわえてシャープな味わいに改良したそうです。
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いっぽうの「アロス」は、ペルー風の炊き込みご飯です。水分をある程度残すので、イタリアのリゾットとスペインのパエリアの中間くらいのイメージでしょうか。有頭エビ、ホタテ、タコ、マグロなどの魚介類(マリスコ)を贅沢に盛り込んだ一品で、生クリームを加えた濃厚な仕立てでありながらも、ピリッと辛いタマネギのマリネやパクチーの香りが引き締め役となって、飽きのこない味わいです。
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葛藤の末に自分をみつけた

幼いときに日本にやってきたアキノリさんは当然のように日本語を話し、日本の社会で暮らしていましたが、風貌はペルー人寄り。学校で「ガイジン」とからかわれたこともあったといいます。いっぽうで両親が話すスペイン語は、満足に話せない。「自分は何人なのか」と葛藤したこともありました。
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料理人をめざして調理師学校を卒業したあとは、日本の食文化について深く学ぶために東京の日本料理店で修業しました。それでも最終的には両親が守ってきた店を継ぐため、伊勢崎にもどってきたのです。両親との距離を縮めるためにスペイン語も学び直しました。
複雑な事情を抱えながらも、生まれ故郷から遠く離れた伊勢崎の地でペルーの味を日本人に伝えていくと決心したアキノリさん。汗だくになって毎日ロースターの前に立つ父と、それを支える母。親子の絆で営まれるこの店で、新しく受け継がれ始めたペルー家庭料理の“今”を味わってみませんか?
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Text/Tetsuo Ishida