人々と畑をつなぐターミナル。

日々の仕事や都会の生活で疲れた心を癒したくなることはありませんか? 日光市の下小代駅の近くに、地元産野菜を使った料理が売りの小さなカフェレストランがあります。東武特急を使えば、東京都心から2時間弱(片道約2,500円)で訪れることができるこのレストランで、木のぬくもりに包まれながら、地元の元気な野菜をいただき、人々の温かいおもてなしを受ければ、日頃のストレスが吹き飛ぶかもしれません。

下小代駅は、浅草や北千住から2時間弱で到着できる東武日光線の小さな無人駅です。その駅のホームから見える場所にある「カフェ&バー バウム」は、地元や鹿沼界隈の住民の憩いの場になっています。水下佳巳さんとちひろさんの夫婦が2016年に開業しました。
photo by Yoma Funabashi
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地元農家10軒以上とお付き合い

バウムのいちばんの売りは、栃木県産の素材を使った料理の数々です。とくに野菜は地元である小代や那須、鹿沼など、県内にある10軒程度の生産者から直接仕入れています。地の利を生かし、その日の朝に農家を訪れて仕入れた野菜を使っているので鮮度は抜群です。
photo by Yoma Funabashi
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取引先の生産者は、水下さんが以前勤めていた那須のホテル時代の知り合いのほか、いきなり訪れて取引をはじめた農家もあるといいます。
この地元の野菜を使った人気メニューの一つが「国産豚リブロース ひやまさんの塩糀焼き」です。自慢の野菜をローストしてたっぷり添えています。このときはニンジン、ブロッコリー、カリフラワー、紅心ダイコン、ズッキーニ、サツマイモ、カラシナ、イタリアンパセリなど。根菜類はみずみずしくジューシーなうえに、甘みが強くて味が濃い。葉野菜はシャキッとした食感で香りも立っているので、オリーブオイルと塩だけでおいしく食べられます。…これが本当においしい。
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メインの豚肉は熟成した「つけもの樋山」の塩糀で1週間程度マリネしてからローストしています。やわらかく、風味豊かに仕上がったローストはバルサミコ酢のソースとともに食べる仕立てです。
料理人だった佳巳さんが、多国籍な料理全般を担っているのに対し、ちひろさんはパンとデザートの担当です。
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写真は「メープルシロップのロールケーキ」。こちらも地元農家から仕入れたイチゴ、リンゴ、洋ナシといったフルーツやミントなどのハーブ類をたっぷり添えています。カナダで製パンの修業経験があるちひろさんが焼く自家製酵母を使ったパンも人気です。

お父さんは家具職人の“ふくろうさん”

ちひろさんのお父さんは“ふくろうさん”こと、家具作家で、店舗のデザイン・施工も手掛ける渡辺貞継さんです。店の隣にアトリエ「森のふくろう」を構えていて、バウムの内装もふくろうさんの手によるものです。
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廃材を利用してつくった椅子やテーブル、居心地がよすぎるトイレなど、見所が盛りだくさん。木材の温かみがありつつも、野暮ったくはならず、お洒落で機能的な空間になっています。蔦がからまる外観には、夜になるとオレンジの灯がともり、ジブリ映画に出てきそうな幻想的な雰囲気にさま変わりします。

地元の憩いの場として

バウムは、ランチ、カフェ、ディナー、バーと多様な利用動機に対応していますが、夜の時間帯にはワイン好きの常連客が主催するワイン会が催されることもあります。ふくろうさんが中心となって開催されるものづくりのイベント「小代ルネッサンス」も定期的にここで開かれ、そのときに提供する食事が定番の献立に昇格することもあるそうです。
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バウムという店が地域の生産者と消費者を結びつける媒体となっているばかりでなく、地元住民の憩いの場を提供することで、地域共同体の創造にひと役買っているのです。下小代という小さな無人駅の近くにひっそりたたずむバウム。そこで育まれた人々の輪の中に入って、温かいもてなしを受けながら、産地に近い店ならではのおいしい野菜を味わってみてはいかがでしょうか。
 
Text/Tetsuo Ishida